実務プロコース第 8回目:実施図面の方法-2
第08回目:実施図面の方法-2
第8回目:前田紀貞建築塾 実務プロコースは、「実施図面の方法 -2」です。
先週の続きで、もう少し具体的な例を挙げて説明されました。
今回も、前田紀貞アトリエの白石隆治講師が担当します。
作品は、白石隆治講師自身が担当した「TORUS」をメインにされました。
TORUS:private residence & pet-shop - a set on Flickr
まずは先週も話があったように、実施図面では
PLAN(計画) → DO(実行) → SEE(検証)
が基本でしたね。
なので、「TORUS」の最初の「PLAN」(計画)をもう一度、スケッチで確認してみましょう。
細胞の成り立ちからヒントを得た
「内の内は外」がコンセプトでした。
更に、このプロジェクトの“当初の構想”をCGで確認します。
次に、具体的に幾つかの箇所に関しての話がされました。
■「ガラス床」
まずは床のガラスを如何に存在感無く納めるか、ということについてです。
図面の赤丸の部分 ↓ です。
ここでは当然、
「ガラスが床に刺さっているだけ」
という顔付きにしておかなければなりません。
その為に、まずは各所 構造強度の確保の仕方、見える部材/見えない部材、そうした部材の見え方/隠し方などについて説明が成されました。
加えて、できるだけコストパフォーマンスの良い方法を採らないと予算オーバーへ影響してしまいます。
以下が実際に描かれた図面です。
部分的には、「床ガラス」と「窓ガラス」がぶつかるところも出てきます。
しかも、それらが地震時に互いに干渉し破損しないよう工夫すること、
或いは、漏水事故を起こさないような工夫も当然必要となってきます。
そういう細かなことについて、述べられました。
これが
DO(実行)
という実施図面の段階です。
因みに、これは以下のように制作図となります。
で、実際に完成した姿です。
まるで床のボイドにガラスが入っていないみたいですね。
こうした納まりの為に、前田紀貞アトリエスタッフの人たちは、日々、命を賭けて奮闘するのです。
ここで「命を賭けて」と書きましたが、私としては決して大袈裟に言っているつもりはありません。白石講師などを見ていると、正にそんな言葉しかない、と思わされてしまいます……。
そういう建築への愛情と気迫で充満している、という感じなんです。
で、話を戻して
同じ箇所を下から見上げるとこんな感じです。
これまたガラスが入っていないようです!!
■「窓のエッジ」
次は、下の写真のような「ボテッとした開口部」を作る為のディテールです。
通常の建築物では、開口部は“エッジが効いています”が、
TORUSでは白い塊から「ボロッ」と一部が取れてしまったような表情が求められました。
開口部のエッジひとつで、建物の印象というものは、全く違ってしまうのですね……。
それには下のような感じでの「DO」が成されました。
こうしたものを丁寧にひとつひとつ対処してゆきます。
この部分は、特に納まり的には難しくはありませんが、
こうしたアールの対処をモルタルと塗装材で行うにあたっては、工事監理での辛抱強い留意が必要なのです。
■「見えない扉」-1
次は以下の赤丸部分にある扉(非常用進入口)の処理です。
一見、「ええ、ここに開口があるの?」と思うでしょうね。でも、よく見るとあるんです (-_-;)
逆に言えば、それだけ目立たないようにする為の工夫がある、ということですね。
ここは、
こんな感じの納まりです。
これも特にハイテクニック、という訳ではないかもしれませんが、こうしていつも建物すべての場所へ気遣いをします。
ただそれも、すべて、最初の「PLAN」を純粋に導く、という出発点を遵守するという行為に他なりません。
■「見えない扉」-2
次は、室内扉です。
下の赤丸部分の扉です。
これまた“扉が無い”ように見えますね。
こういうことをするのは、ただ「目立たないデザインをした!!」というのではなく、
このTORUSという建物じたいが、
↓下のような室内壁のデザインモチーフでできているからです。
因みにこのウネウネデザインは、「上から落ちてくる光」をより鮮明に映し出す為の工夫です。そして、「内の内は外」の細胞からの引用でもあるでしょう。
つまり、「上から落ちてくる光」というのは、
そもそものスタート地点での「内の内は外」を支える大切な要因だったことを思い出してもらいたいと思います。
加えて、
扉だけではなく、キッチン(写真 右端)も同じような顔付きで処理されます。
■ワイルドだろう?
ただ、
建築の様相(空気の感じ)を作り出すには、「統一感のある美しいディテールだけ」では足りない……
白石講師は、そう言います。
そういう職人芸のようなディテールを得意げに誇る建築家の人たちが居ますが、私もあまり好きではありません。
だって、見ていて息苦しくなるからです。
建築は工芸品ではなくて、あくまで「空気の様相」だと思うからです。
そう考えていたら、流石、白石隆治講師。
その点にも説明が及びます。
下の納まりを見てください。
「手摺が壁と取り合う赤い部分」です。
拡大するとこんな感じです。
なんと、壁に手摺が刺さっている……、しかも普通だとこういう部分にシールをして納めるのに……。
なのに、刺さって終わり……、
しかも木壁に開けられた穴の小口が見えてる…… (-_-;)
緻密なディテールの一方にこうしたワイルドさを空き地としてわざと残している
のです。
だからこそ、このTORUSの空間には「おおらかさ」が漂うのです。
同じように、上の拡大写真では、グレーチングもその端に「受け材」を設置することなく、グレーチングがそのまま放置されてあるような見えになっています。これも同じことです。
いやはや、勉強になります……
前田紀貞塾長の言う、
対極を捩ること・超越論的眼差し
という考えが、こういう所で息をしているのだと思います。
そして、
色即是空、空即是色
ですね
■その他
その他にも、幾つもこうした例が挙げられました。
例えば、
・空調機の吹き出し口の対処法
これを形だけ真似ると、
結露水の問題や付近の木板の腐食などを引き起こしてしまいます。
・家具(キッチン)と建築が溶けるようにする為の方法
まるで、キッチンが床から生えているようですね……
・ささら無し階段の方法
よく見かける風景ですが、これも間違った「DO」をすると、
壁にクラックなどが入ってしまいます。
・コンクリート打ち放し仕上げで、階ごとの「打ち継ぎ目地」を作らない方法
実際の竣工した作品は右ですが、これがマッシブに見えるのは
「打ち継ぎ目地(横目地)が無い」
からです。
ただし、これを普通にやってしまうと、100%漏水の原因になります。
なので、普通は左写真のような残念な顔になってしまいます。
「あ〜あ……」という感じですね。
でも、こうした方法を知っているだけで、
「PLAN」は忠実に「DO」へ導かれることになるものです。
因みに、この建物(THE ROSE)の「PLAN」は、
「プリンを刳り抜く」
でした。
THE ROSE:private residence & office /住宅設計 - a set on Flickr
だからこそ そこに、
「はい、これはコンクリートの建築物ですよ!!」
と言わんばかりの「横目地」があってはいけないのです。
というような話が続きました。
他にもこうした類のことが沢山紹介されました。
白石隆治講師は、最後に締めくくります。
建築は未だ見ぬ世界観を表出させるものだ。
だから、そこに(悪い意味での)“設計や工事の事情”が匂ってきてはいけない。
それをどこまで忍耐して純化できるか、その為に建築への忠誠心を以て
設計や工事としつこく関わり続けるか。
その腹と覚悟だけが建築を純粋にするのだ。
と。
そして、最後にはこうした鍛錬とたゆまぬ努力が世界へと発信されてゆきます。
お疲れ様でした。
(前田紀貞建築塾塾生団体 AA)
前田紀貞アトリエ:http://maeda-atelier.com/